中途半端な救急医【後編】

ERとICUのはざまで、立ち位置を探し続ける

野田 透 氏(金沢大学附属病院 集中治療医/山岳医)

金沢大学附属病院で集中治療医として勤務なさる野田医師。かつては泌尿器科医としてキャリアをスタートしましたが、進路に悩んだ結果、救急の道に挑戦した経験をお持ちです。
ER型救急医とICU型救急医、両方を経験して常に課題と向き合い、苦労や迷いの末に見つけた「目指す救急医」とは。野田医師のキャリアに影響を与えた数々の経験や今後の展望について、前中後編にわたってお届けします。

後編では、野田先生が理想とする救急医の医師像や、今後の野望についてお話しいただきます。

 

集中治療への挑戦

 災害拠点病院での一人救急医の経験を通して「真のER型救急医」には程遠いと実感した私は、一旦ERを離れて集中治療に専念すべく再度金沢大学に行きました。かつて救急集中治療部という組織であったのですが、私のいない間に救急部と集中治療部に分かれていました。私は集中治療部の所属になりました。
 その時点で、「真のER型救急医」を目指して、福井に舞い戻るという方法もあったかもしれません。打診はしませんでしたが、おそらくお願いすれば何らかの形で受け入れてくれたでしょう。しかし、そうはしませんでした。実は「集中治療」という分野にもかなり興味がありましたので。
 集中治療室にも、専従の集中治療医がすべての重症患者を診ているところ、術後患者が主体で、麻酔科出身の医師が中心となって運営されているところ、救命救急センターと一体で救急科の医師が主に働いているところなど、さまざまな方式があります。
 ICU専従医師の主治医との関係性によっても、open型、closedまたはsemi-closed型など、いろいろな運営方法があります。2019年8月現在、金沢大学は12名の医師がICU専従であり、常時2名以上がICUにいます。
 病院の特徴として昔から外傷は少なめなのですが、大手術の後に、病棟での状態悪化、救急外来を受診した重症患者、とあらゆる経路からいろいろな方が入ってきます。常に満床というわけではないのですが、ICUは22床あり、その約半数は、集中治療医が主体となって全身管理を行っています。残りの半数はというと、これは、特にトラブルなく終了した大きな手術後の方がその多くを占めるのですが、主治医が自分たちで全身管理を行い、何か困ったことがあれば集中治療医がお手伝いをする、という方式を採っています。

 この仕事をして、いつの間にか丸8年が経過しました。集中治療医がその真価を発揮するときはたいがい患者さんは意識がないので、直接感謝されることはほぼないですが、患者さんが治っていくのを見て、後ろで人知れずガッツポーズをとっているという状況でもかまわない、という人には向いている仕事です。

 ICU歴が長くなったので、心臓手術の術後対応や心不全なども、表向き普通の顔をして診察しています。しかし、私のような救急医上がりが「真のICU型救急医」となるためには、循環器内科や心臓血管外科、麻酔科といった心臓が得意な科から来た医師に比べて、「精密な循環管理」という点で若干弱いところがあり、それを克服するのが現在の課題となります。ただ、一朝一夕にはいくはずもなく、いまだに修練の日々です。

 

「中途半端さ」を貫くこと

 かくして私は、真のER型救急医にも真のICU型救急医にもなりきれず、ERとICUの間の中途半端なところに立ち位置を持つことになりました。これを福井県にいる恩師に少々愚痴ったところ、こう言われたのです。
 「かつて救急部と総合診療部を合体させている福井大学のあり方は、中途半端な医師しか育たないと言われたこともありました。しかし、ある先生には『今まで日本は現場のニーズに合った中途半端な医師を育ててこなかったから、地域医療や教育医療が崩壊したんです。胸を張ってもっと中途半端な医師を育てて増やしてください』と激励されました。
 僕は救急医か総合診療医かわからない中途半端な医師を生きたと思っています。そしてそのことを誇りに思います。野田先生がER型救急医か集中治療医かどっちつかずの中途半端な医師になられたことは素晴らしいことだと思います。先生、胸を張って中途半端な医師を貫いてください」
 ――そうすることにしました。こうして、中途半端な救急医が一人できあがりました。

 今後はどうなるのか、何らかの形で、ERとICUの間にいたいと思ってはいますが、確たる展望はありません。私はまだ道の途中にあり、いまだにふらふらしています。
 妻には「最低65歳まで、可能なら70歳になっても働いてほしい」と言われています。最近、夜勤のときちょっと眠いですが、集中治療医としての日々はまだまだ続きそうです。

 

我が子と同じ境遇の子供を救いたい

 ところで「医療の恩恵を受けていない子供、大人はたくさんいます。」という言葉を発展途上国の医療支援をする際など、時々耳にします。しかし、もっと身近に、そんな人はたくさんいるというのが最近わかってきました。
 うちの小学生の次男は自閉症児で、知的障害もあります。よく中耳炎を起こしますが、暴れて診察もままなりません。うちの子はまだ点滴くらいは可能なのですが、知り合いには、それもできず、ほぼ医療の恩恵を受けることができない、という子もいます。「それは本人の問題で、医師や病院はそれに対して何もできない。仕方がないことだ」私はこういうふうに考えて、あきらめていました。
 しかし、そうではありませんでした。Applied behavior analysis(応用行動分析学)、通常ABA(※)と略されますが、この考え方を用いたトレーニングの方法があります。残念ながら日本ではさほど普及しているとは言えないものの、アメリカなどでは広く行われています。

※自閉症児や発達障害患者の問題行動を改善するためのトレーニング

 私が知らなかっただけで、日本でも歯科領域などでは「障害者歯科」という分野が確立していました。動物の場合は同様の方法をハズバンダリートレーニングと言うようですが、動物園でジャガーやキリンが採血のときに自分から手や首を出すように訓練できるものです。麻酔銃や網などを使わずに安全に検査や治療が行えるような訓練が行われている、という事実も私にとって大きな衝撃でした。

 これを応用して、現在まともに医療を受けることができない自閉症、知的障害児に何かできるのではないか、訓練によりきちんと医療を受けることができるようになるのではないか、と、ずっと考えています。人間でそれを行うことは「手法として餌付けと同じだ」という批判もあるようですが、それは愛情と尊敬の念をもって練習を行えば良いだけであって、医療が受けられなくて苦しんでいる子に何もしない理由にはならないし、ジャガーにできて人間にできないことはない、とも思います。
 ただ、どうしたら良いのかよくわかりませんし、具体的に何かできているわけでもありません。これがずっと頭の中にあります。「中途半端な救急医として働く傍ら、もう少し構想を練って、私が定年になる前には何か行動を起こしたい」これが現在の私の野望です。

 

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野田 透(のだ・とおる)
富山県生まれ。1993年、金沢大学医学部医学科卒業。2019年11月現在、金沢大学附属病院に集中治療医として勤務。もともとはER型救急医であり、それ以前は泌尿器科医でもあった。日本DMAT隊員でもあり、山岳医としての顔も持っている。
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