卒後10-20年、中堅医師としての道を拓く 若手医師を育てる「Teaching Skill」講習会

【第6回】あなたのティーチングスタイルは?

浜田 久之 氏(内科医/長崎大学病院 医療教育開発センター センター長・教授)

卒後10年~20年も経つと、臨床経験も豊富になり、中堅どころとして現場の第一線で活躍されている先生も多くいらっしゃることと思います。一方で、若手医師の教育を任され、不安や迷いの中、試行錯誤されている方も少なくないのではないでしょうか。
初期研修が義務化されて10年。4月には新専門医制度も開始されました。地域の医療を守り、病院が生き残るために、「若手医師を育てられる」ことが重要視される昨今、若手医師への適切な指導やキャリア育成のできる「教育力」を持つ医師のニーズが高まっています。

本シリーズでは、医学博士・教育学博士であり、内科医として毎日現場で若手医師の指導に力を注ぐ浜田久之氏(長崎大学病院 医療教育開発センター長)に、明日から実践できる若手医師の教育ノウハウ=「Teaching Skill」を12回連載で解説していただきます。

第6回は指導に生かせるティーチングスタイルを学びましょう。

第5回までの復習をしてみましょう。

第2回:指導することは、若手のためにではなく、自分の成長になると考えた方が楽である
第3回:若手があなたの所に来たら、雰囲気を作るために、まずは自ら自己紹介をする(3分)
第4回:研修の目標を示したオリエンテーションをする(5分)
第5回:教える際には、自分の受けた指導を若手に押し付けて、怒ると非効率

と、いうことでした。

さあ今回は、「自分は指導医としてどんなタイプ?」がテーマです。

 

良い先生、悪い先生とは?

あなたの幼稚園から小学校~大学、そして医師としての修業時代を振り返ってみてください。
教わった先生は、優に100人を超えるでしょう。その時々で、あなたは、A先生はいい先生、B先生は怖い、C先生は好きだ……と、親に話したりしたでしょう。医師になってからは、同僚との飲み会で指導医を評価したりしたと思います。しかしながら、大人になると、小学校の時の怖かったB先生は、実はとても優しい先生だったと気づいたりします。卒後10年目の医師となると、研修医の時に教わった好々爺のベテラン先生は、少し物足りなく正直嫌いだったが、今振り返ってみると、さまざまなことを考えて研修医の自分を支えてくれていた……とか。

良い先生とか悪い先生という評価は、自分の成長段階のある一時的な自分の主観による評価にしかすぎません。しかし、教育の学問分野では、「良い先生」の研究は多くなされており、一般的な共通要素はあるようです。

 

指導力のある良い指導医の条件とは?

あなたがこれまで出会った良い指導医を思い浮かべてください。
おそらく、下記の5条件を満たしているのではないでしょうか。

①学習者が学びやすい雰囲気作りをしている
②医学的な知識と技量を持っている
③指導するための教育的な知識(プログラムや到達目標等)を持っている
④指導するための教育的な技術(フィードバック等)を持っている
⑤ロールモデルとなる態度で振る舞っている

いくつかの研究から、客観的に見て「良い指導医」というのは、上記のようなものを備えているようです。大学のFDや指導医講習会などで学ぶことも、上記の5条件のいずれかではないでしょうか。

 

誰でも良い指導医になれる?

多分、なれると思います。
ある程度の勉強をして、教育的な知識と技量を身に付ければ、なれます。しかしながら、人による向き不向きはあると感じています。教えることが嫌いならば向いてないということですが、このコラムを読んでいただいている先生は、教えることに多かれ少なかれ興味がおありだと思いますので、大丈夫です。きっと良い指導医になれます。

 

言葉で指導する

良い指導医は、上記の5条件を備え、さらに相手に響く「言葉」を持っています。つまり、教育とはあなたが知っている、伝えたいことの言語化です。適量の適切な言葉で指導できる人が良い指導医と言われるのです。

逆に言葉ではなく、「俺のやることを視て、盗め」「先輩の背中から学べ」も正しいと思います。図1では、左上の職人気質の人ですね。

 

浜田久之_第6回_図表

 

「黙って俺のやり方を見ておけ。よく見ておけよ、次はお前がやるんだからな」。
高倉健タイプでしょうか。臨床で言えば昔よくいた「ザ・外科医」というタイプでしょうか。また、武田鉄也タイプもいますよね。とにかく、機関銃のようにしゃべる。
「いいか、医師と患者の関係は、人と人の関係だ。上下も左右もない。そもそも人という字の成り立ちを知っているか? 漢字で『人』は、どう書く? そうだ、つまり人とは……」
延々と続きますね(笑)。これも、医局(職場)には、必ずひとりはいますよね。しゃべりで、人をぐいぐいと引っ張るタイプ。図では右上でしょうか。

 

導く力を備える

教育では、言葉を発するだけでなく、学ぶ人を導かなければなりません。時には、強く引っ張ったり、突き放したり、泳がせたり、仲介したりしながらリードしなければなりません。適度な強制力=「導く力」。すなわち、上記の①~⑤を総合した指導力だと考えてみましょう。

強制力が強過ぎると、「つべこべ言わずにやれ!」。職人気質型ですね。ドラマ「半沢直樹」で、パワハラ上司役の香川照之でしょうか。図で言えば、縦軸の上の方ですね。
逆に、強制力が弱くなると、「う~ん、やれば~」。放置型になりますね。所ジョージさんのタイプですかね~。図では、縦軸の下の方ですね。今時は、極端な両者の場合、研修医からは確実に嫌われてしまうでしょう。

 

最も嫌われるのは、言語量が多いが指導力不足の指導医

図では、右下に当たります。それなりにしゃべるものの、何を言っているか要領を得ない。人は悪くはないのだが、適切な指示も出さずに、責任もとらないダメ上司ですね。「踊る大捜査線」の湾岸署の神田署長とか……ですかね~。

 

バランスよく、できるだけ真ん中に

あなたはどのタイプでしょうか?
私は、若い時は右上の多弁な熱血型でした。今も多少は残っていますが、ずいぶん言語量は減ってきたと思います。飲みに行く回数も減りました。今では、自分が右下の理解不能型の指導医にならないように気をつけています。研修医の前では、あまりしゃべり過ぎずに、戦略的に話そうと考え準備をしています。

また、私は仕事の立場上、教育責任者として強制力を持っていますので、左上にもならないように気を使っています。つまり、図の真ん中になるように、いつも努力をしているのです。

最初から良い指導医になれる人はいないでしょう。また、良い指導医と呼ばれる人たちは、私の目にはいつも精進しているように映ります。

当院では、毎年研修医がベスト指導医賞を選びます。
ベスト指導医賞に選ばれる先生方は、言葉と強制力の絶妙なバランスを保っています。
選考理由を研修医たち「適度に引っ張ってくれる」と述べます。さらに、その先生方は、雰囲気作りが上手で、いつも教え方に工夫をしているようです。柔軟な考え方をする人多いのも特徴的です。おそらく、上記の5条件を備えている方が多いのだと考えています。

さて、あなたは、どのタイプでしょうか?
自分ではわからなければ、研修医に聞いてみるものいい方法かもしれません。
上記の5条件と図を参考に、最初の第一歩は、「良き指導医を演じる」ことから始めてはいかがでしょうか?

<<前回記事はこちら

第7回記事はこちら>>

<参考>
Peter Cantillon、Linda Hutchinson、Diana Wood編集「ABC of Learning and Teaching in Medicine」(2010、BMJ books)
http://edc.tbzmed.ac.ir/uploads/39/CMS/user/file/56/scholarship/ABC-LTM.pdf
Samy A Azer「The qualities of a good teacher: how can they be acquired and sustained?」
(2005 Feb;98(2): 67–69. JRSM)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1079387/
野村英樹「研修医教育における指導医の役割」(2008年、「日内会誌」97 : 1135~1139)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/5/97_1135/_pdf
「良い先生」の特徴と、求められる資質とは?
http://www.oshieru.biz/plus/oyakudachi/19.html
浜田久之、(中略)大谷尚、 ヘレン・バティー著「客観的指導能力評価(Objective Structured Teaching Evaluation: OSTE)の実施と分析」(2010、「医学教育」41(5):325~335)
Jamie Johnston「What Makes a Good Teacher?」

 

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浜田 久之(はまだ・ひさゆき)
大分医科大卒。内科医、消化器内科専門医、プライマリケア学会指導医。
博士(医学)、博士(教育)。認定医学教育専門家。
予備校講師・学習塾経営を経て、長崎の内科医局に入り地域の中小病院で働く。卒後5年目頃より研修医指導をしながら、野戦病院にて総合診療病棟等の立ち上げ等に関わるが、疲弊し辞表を提出したことも。
10年目、逃げるようにトロント大学へ。帰国後開業するつもりだったが、カナダの医学教育に衝撃を受ける。帰国後、社会人大学院生として名古屋大学大学院教育発達科学研究科で学びながら、カナダで修得した成人教育理論を基礎としたTeaching技法を伝える指導医講習会を主催。現在1000名以上が受講している。
「教うるは学ぶの半ばなり」。日々挫折や葛藤の中で学び続けている。
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