管理職としてのマネジメント力の磨き方 前編

「他人に興味を持つこと」がマネジメントへの近道

大嶽浩司 氏(昭和大学医学部麻酔科学講座 主任教授)

効果的な治療を提供するためには、最新の医療知識や技術だけでなく、医療チームや診療科をうまく導いていく「マネジメント能力」も重要になります。
ただ、医療の知識や技術を学ぶ機会や書籍はあっても、医療チームや部門のマネジメントについて学ぶ機会はごく限られているのが実状です。こうした状況の中、医師はどのようにマネジメントを身につけ、実践していけばよいのでしょうか。
MBAを取得され、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務されたご経験もある昭和大学麻酔科教授・大嶽浩司先生に、医師のマネジメント力の磨き方について話を伺いました。



マネジメントのコツは「人の話を聞くこと」

30代後半から40代前半くらいの医師は、まさに医療チームの扇の要です。いい診療を提供していくために、部下や他職種、あるいは患者さんや家族もマネジメントしなくてはいけない。ときには上司もコントロールしないといけないこともありますね。
またこの年代は、今後シニアマネジャーになっていくのか、現場のプレイヤーでい続けるかを選ぶ分岐点でもあります。特にシニアマネジャーになっていく場合は、組織のマネジメントというのがさらに必要になってきます。

マネジメントに「向いている人」はいると思いますが、「向いていない人」はいません。「チームとして良い方向に向かう」「チームとしてHappyになる」ために心を配り導くのがマネジメントであり、管理職。そう考えると、マネジメント力は誰しもが得られる能力なのではないかと思います。

さて、このマネジメントをどうやって学ぶか。
医師の世界は徒弟制度的な部分があるので、まずはグッドマネジャーのプラクティスを見て学ぶ。うまくとりまとめている先輩を見て、自分も真似してやっていくというところがあります。マネジメントのセンスがある人はそれでできているんだと思います。
ただ、よいロールモデルが近くにいないような場合はなかなか難しいですね。マネジメントは教科書だとか、「こういう場面では看護師にはこう言ったらいい」というマニュアルがあるわけでもなく、シチュエーションによってまったく違ってきます。対人スキルのセミナーに参加するという方法もありますが、現場でチーム医療の扇の要になっている医師が、数十時間単位のワークショップに参加するようなことはおそらく不可能です。

ではどうすればいいかというと、大事なのは人の話をよく聞くことです。医局員の話だったり同僚の話だったり、そして特に他職種の話をよく聞く、目配りをするということ。
医師はつい「自分が中心」になってしまいがちです。もちろん、医療現場では医師が中心的なプレイヤーとしてパフォーマンスをするわけで、それが一番重要なパートであることは間違いありません。ただし、そのパフォーマンスを発揮できているのは、周りが支えてくれているから。周りというのは看護師さんだったり、年下の先生だったり、あるいは上司が環境を作ってくれていたり。あと忘れちゃいけないのが事務の人ですね。そうしたいろいろな人が置かれている状況やニーズ、モチベーションを探っていくことが大切です。

だから、マネジメント力を身につける方法を端的に言うと、「他人に興味を持つ」ということになります。部下やほかの人に興味を持ち、何をしていて、何を求めているんだろうということを知っていく。そういうところから、30代、40代のミドルマネジメント層としての変化が始まります。

 

事務との関わり方で環境が変わる

管理職になると大きく変わってくるのが、事務との関わり方です。若手の頃は「事務のおじさん」「事務のおばさん」ぐらいの認識で、何かの書類を提出するときに関わる程度でも十分です。ただ、管理職として自分の働く環境を良くしていくには、事務との密接な関係がすごく大事になってきます。

例えば「新しい機器を購入したいのに、事務が買ってくれない」というようなことはよくあると思います。事務方からすれば新しい機器の必要性が分からないから蹴られるんです。そうすると、何らかの根回しが必要なわけですよね(笑)。
その機器がどうして必要なのかを理解してもらうために、日頃からよく伝えておく、あるいは現場を見せておく。ただ、事務員はそう簡単に現場まで来てくれませんから、そこは自分から相談をしに行くわけです。
医師が事務に行くときは「クレームを言いに行くとき」になりがちで、話すときは命令口調になってしまいがちです。そうではなくて、普段から「現場でこういう問題があるんだけど、どうしたらいいかなあ」と相談をするようにします。
すると、購入申請書を書いて出すだけでは分からなかった、要求が蹴られていた理由が分かってきたりします。「現在ある機器の使用実績が記録されておらず、新しい機器を購入する必要性が分からなかった」ということが分かる。そうすれば今度は、「機器を使用している診療科で横断的に使用実績をとりましょう」というふうに、建設的に話を進めていけます。

 

俯瞰的に見ることで連携できる

病院によって、組織の形態や規模、メカニズムはまったく違います。でもこのようにいろいろな人の話を聞いていると、誰がどのように関わって、どのように働いているかが徐々に分かってきます。
どれだけ病院の中を俯瞰的に見られるかというのは大事なポイントです。例として、自分の診療科以外の科で自分の科と同じ機器を欲しがっていることに気がつけば、科を越えて連携し事務と交渉することもできます。

医師の中には、「自分の病院に事務課がいくつあって、どんな仕事をしているか」を知らない人が多いのですが、これを知っていれば何をどこにお願いすればよいかということが分かります。
また、事務にも若手から課長、事務部長までいるわけですが、お願いする仕事のレベルによって話す相手も変わってきますよね。このお願いは誰に言えばよいかというコンタクトパーソンを把握して、名指しで相談できるようになると、やりとりがスムーズになります。さらに一人ひとりの性格まで分かるようになってくると、診療環境を整えやすくなってきます。

 

10人育てれば、10倍以上の人をHappyにできる

30代半ばぐらいまでは現場のプレイヤー一筋でもいいかもしれませんが、40代になると次の世代を育てる必要がでてきます。
自分ができるよりもうまいパフォーマンスで部下にやってもらうというメンタリティが持てるがどうかがすごく大事です。優秀な人ほど、50歳、60歳になっても自分自身で一生懸命やるんですが、もっと大切なのは次を育てることです。

以前、私の恩師である森田茂穂先生に言われたことがあります。
「どんな名医も、自分が会った患者しか治せない。でも、自分より優秀な人材を10人育てれば、自分が診る10倍以上の患者さんを診ることができる。さらにその10人が10人を育てれば100倍の人を幸せにできる。だから君は、まだ会ったことがない人をどう幸せにするか考えなさい」
自分の病院に来た人を幸せにするのはもちろんですけど、自分の病院に来ていない人をどうやってHappyにしてくか。その方法の一つが人を育てることです。また、研究をして医学の発展に貢献することも一つです。新しい技術を開発して普及させれば、自分が行ったこともない世界中の国でそれが使われるかもしれません。

 

教わる人の手を自分の手だと思って指導する

現場で人を指導するマネジメントには、2通りあると思います。
麻酔科など手技的なものを例にとると、一つは教わる人の手を使いながら、自分がやっているのと同じようなパフォーマンスを残させるという方法。
もう一つは、とりあえず教わる人にやらせて、うまくできていないと「貸してみろ!」と言って自分でやってみせる方法。たまにはこうしたカンフル剤も必要かと思いますが、こういったやり方はおそらく教えたことにはならず、ただ自己顕示をしているだけです。
臨床の第一線にいると、ついこうした指導をしてしまいがちです。それに自分で気づいてやっているのならいいんですが、おそらく気づかずにやってしまっている。もちろん、それは患者さんのためではあります。ただ、本当に良い管理職になっていくには、教わる人の手を自分の手だと思って、できれば途中でとりあげてしまわずに、うまくガイドをして同じパフォーマンスを残させること。そうやって指導できる技術もあれば、そうでないものもあると思います。ですが目指すところは「とりあげない指導法」ではないでしょうか。

 

”No!”を言い続けると10年後に相手にされなくなる

さて、30代、40代ぐらいの医師は、仕事面では臨床、指導、研究と忙しく、プライベートな面でも結婚したり子どもが産まれたりとイベントが多くなりがちです。優先順位を決めて、やることの取捨選択、時間管理をする必要が出てきます。

ただ、意外と自分に直接関係ないと思うようなことが、後になって関係してくることもあります。そのため、自分の視野を広げ、物事を俯瞰的に見られるようにするには、関わったり頼まれたりしたことはなるべくやったほうがいいと思います。
一見、自分と関係ないことについて「それは私の専門ではありません」「それは違います」「No! No! No! No!」と言ってばかりだと、50歳になって誰からも何も言われなくなります。医師として脂が乗っている時期は自然と人が寄ってきますが、脂はいずれ乾いてきますから(笑)。

医師に欠けがちなのが、10年先、20年先を見据えたキャリアマネジメントです。転職など、目の前のことについて「これをやりたい、やりたくない」という話はよく聞きますが、「自分が60歳になった時にこういうことをしたいので、今はこれが必要」という話をする人は本当に少ないです。
医師は60歳や70歳まで働く息の長い職業なので、50歳、60歳になった時に何をしたいかは、常に念頭に置いてキャリアを考えておくとよいでしょう。

 

後編ではリーダーシップのあり方や、将来を見据えたマネジメントのあり方について伺います。

(聞き手・エピロギ編集部)

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大嶽浩司(おおたけ・ひろし)
昭和大学医学部麻酔科学講座主任教授。1998年東京大学医学部卒業。日本のほか、オーストラリア・アメリカで臨床麻酔医として勤務。2004年よりシカゴ大学ビジネススクールMBAに進学し、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて2年間勤務したのち、2008年より帝京大学医学部附属病院経営企画室に勤務。2011年より自治医科大学地域医療センター地域医療政策部門長。2013年9月より現職。
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