第7回 「塾選び」という最重要事項
藤崎 達宏 氏(子育てコンシェルジュ)
ここまで、連載第5回で中学受験のメリットを、第6回では中学受験のデメリットをお話ししてまいりました。
医学部受験という険しい山登りのルート選択の中で、中学受験をする! という選択をされた次には「塾選び」が待っています。また選択ですか? という声が聞こえてきそうですが、この入口こそ、最重要事項です。
子どもをじっくり育てたかったら、親が早め早めに情報を集めることです。いざその嵐の中に身を置いてしまうと自分たちの目標や今いる位置がわからなくなってしまうからです。ゴルフでいえば、グリーンに上がる前に、外からそのアウトラインや傾斜角をつかんでおけ!というのと同じですね。
塾なしの中学受験はありえない
「中学受験といったって所詮は勉強なんだから、塾なんて行かなくても学校の授業をよく聞いてればできるんだ!」などと言うお父さんも時々いらっしゃいます。はっきり申し上げます。「塾なしの中学受験はありえません」。
なぜならば、さまざまな受験の中で、中学受験は学校でやっている内容と試験で出る問題の乖離が一番大きな受験だからです。野球で言えばいきなりフォークボールが投げられるようなモノです。見たことない球をいきなり投げられても、打てるわけがありませんよね。
また、中学受験の情報はすべて塾が握っています。公立の小学校の先生に聞いても何も教えてくれません。全国区の模擬試験を受けてみなければ、わが子の現在地もわからず、志望校をどこにすればよいかさえも判らないからです。
塾は利用するもの。相手のペースには乗ってはいけない
中学受験には塾が絶対必要です。しかしながら、塾は利用するものであって、利用されるものではありません。つまり、塾の言いなりになってはいけません。
塾というのは「不安産業」です。公立中学の廃退ぶりを強調し、私立こそがすべてと導きます。一旦、入塾してしまうと塾のペースにはまり、宿題やテストに追いまくられて、本当に中学受験をするのか、冷静に判断することができなくなります。
それに加えて塾の講師は、子どもの成績に一致一憂し受験レースに熱くなったご両親をなだめ、説得し安心させるテクニックを持っています。成績が低迷していても、「この部分に兆しが見えますね」「あと伸びするタイプですね」と退会を防ぐことも、「塾」と言うビジネスにおいては重要なのです。
あちらもビジネスです! こちらも、自分はお客様だと肝を据えてガンガンいきましょう。「うちの子はできが悪いから」なんて遠慮している場合ではありません。「できが悪いから塾に来ているんです。そんなにできたら塾なんか行きませんから」くらいのつもりで食い下がりましょう。しつこくて、うるさい親だと思われる方が、わが子をよく見てくれるものです。
塾の種類は全部で5つ
小学生が通うのには、どのような塾があるのでしょう? まずはそのアウトラインからつかんでいきましょう。大きく分けて5つに分類できます。
- 1.進学塾
中学受験専門。※首都圏:四大塾(SAPIX、早稲田アカデミー、日能研、四谷大塚)など
※関 西:浜学園、希学園、能開センター、馬淵教室など
- 2.総合塾
受験も補習もなんでも。栄光ゼミナールなどに代表される。
- 3.補習塾
学校の勉強の補習をする、地域の高校受験専門塾も含む。
- 4.ドリル塾
公文や学研などのフランチャイズ塾。
- 5.個別指導塾
TOMAS、東京個別指導学院などに代表される。
しかしながら、塾産業も生き残りをかけてハイブリット化が進んでおり、大手大学受験予備校との提携や、進学塾が個別指導塾を併設するなど変化が激しいので明確に分けられなくなってきています。学習塾ビジネスは栄枯盛衰が激しい業界なので、皆さまのお子さんが入塾する時期には変わっているかもしれませんが、大まかな塾の見方、選び方を今のうちに身に付けておきましょう。
とりあえずここでは、中学受験専門の「進学塾」に絞り込んで話を進めましょう。
※中学受験塾の塾代の金額については、第6回の「塾は絶対に教えない『中学受験のデメリット』」でお話しした通りです。
まずは地域実績No.1の大手から考える
このコラムをご覧になっている親御さんは医学部志望という最高峰に挑まれるので、御三家に称されるような地域トップの中高一貫校狙いとなるでしょう。そこに集まる熾烈な戦いを勝ち抜いてきた生徒は、そのまま、難関大学を目指す良きライバルとなるはずです。そして、その多くは国公立医学部を目指し、わが子のマインドセットに大きく影響を与えることになります。もちろん、成績の如何によって方向修正はあると思いますが、やはりまず検討すべきは、実績No.1塾、現在であれば東のSAPIX、西の浜学園、となるでしょう。やっぱり、そこに行かなくちゃいけませんか? と、よく言われます。
実績No.1の塾をまずは考えなくてはいけない理由は、そこに集まる生徒と情報です。
先ほどお話ししたとおり、中学受験の情報はすべて塾が握っていて、全国模試を受けて偏差値を基準に考えないと、受ける中学校さえも決められないのです。かつてはSAPIXも四谷大塚の全国模試を活用していたのですが、昨今は独自のSAPIXオープン模試を基準としています。つまり、トップ校をめざすSAPIXの学生がごっそり四谷大塚の模試から抜けてしまったことになります。医学部を目指す本当のライバルがいるところでなければ、客観的な自分の位置(偏差値)を正しく知ることは難しくなります。
子どもたちは小学校内でも、塾ごとのグループがあり、情報交換をしています。小学生の孤独な戦いの中では友達の存在は大きく、「あいつもいるから頑張ろう!」といった単純な動機がまだ幼い子どもの心を支えるのです。また、No.1塾に行っているのだから大丈夫という、子どもなりの安心材料や、プライドにもなっているようです。
最悪の状況の時には、教室を移籍、担当講師を替えることができる。などが大規模な塾のメリットです。
このような理由から、医学部受験を目指す上でまず一番に考えなくてはいけないのは、難関校に対する合格実績No.1であるSAPIX、関西では浜学園となります。
■SAPIX・浜学園
しかしながら、これらの塾が全ての子どもに合うわけではありません。小学校4年生で入塾するとして、各教科とも先取り学習が進んでおり、問題処理能力が高い子どもに向いていると言えます。独自のテキストに沿った超ハイスピードの授業とともに、毎回行われる復習テストは、その授業中に採点が終わってしまう。宿題の量も膨大で、一週間で紙袋にいっぱいとなる。毎回のテスト結果によってAランクからはじまり、最上位クラスは「α1」にランク付けされる。こうした中で、問題に対するひらめきが鋭く、スピードについていける、競い合うことが大好きという子にはSAPIXはとても有効な塾となります。西トップの浜学園も同様の傾向があります。
そして、こうした宿題の整理、復習のスケジュール管理は小学生一人では絶対できません。必ず、ピッタリついてサポートする人が必要です。ほとんどの場合が専業主婦の母親の役割です。しかし、親ができない、フルタイムの共働きご夫婦の場合は、フォローのために個別塾にさらに行かせるか、家庭教師に任せるということになります。こうしたフォローがSAPIX等のトップ塾の場合は絶対必要だということを肝に銘じておきましょう。
No.1塾以外、という選択
そのようなフォローが難しい、あるいはお子さんの性格的にスピード重視で競い合う環境は合わないと判断した場合は、実績No.1の塾以外に通う、という選択肢を考えましょう。
■早稲田アカデミー・希学園
「ひらめき!」や「スピード」を必要とするSAPIXに対して、「熱血と根性、皆で切り抜けて行こう!」というのが早稲田アカデミーです。関西でも希学園が「克己」というハチマキを着けて受験に臨むことで有名です。
ひらめき型の子どもでなくても、コツコツ努力して道を切り開いていく。みんな一緒の方が心強い、まわりの雰囲気に左右されやすい! というタイプであれば向いているかもしれません。
■日能研
先取り学習もまだ十分でなく、スピード感もまだまだ、家ではなかなかフォローできないので、できる限り塾でお願いしたいというご家庭も多いと思います。日能研は、裕福で、高学歴を求める専業主婦の家庭特有のものであった中学受験を、一般サラリーマンで共働き夫婦でも塾に任せてください!という切り口で、中学受験の裾野を大きく広げた実績があります。
■四谷大塚
四谷大塚は中学受験の老舗だけあって「予習シリーズ」というカリキュラムは、完成度がとても高く、解説も丁寧なので、ご両親がフォローするには適しています。
■総合塾・地元中小塾
先取りもまだまだ、志望校も難しい、公立中学へ行き、高校受験でもう一度勝負! という選択肢も持つのであれば、栄光ゼミナールなどのさまざまな受験野を併せ持つ総合塾を選ぶことになります。また、最難関中学ではないけれども、行きたい志望校がはっきりしていれば、その学校に強い地元の中小の塾を選ぶことも可能です。その学校独自の過去問対策なども充実し、面倒見が良いというメリットがあります。
転塾は難しい選択である
こうして一旦、塾を決めたら、わが子とともに信じてついていくのが基本ですが、頑張っているのに結果が伴わない。消化不足でついていけていない。クラスは常に最下位。という状況があれば、塾を替えるという選択も必要になります。しかし、転塾にはリスクも伴います。
本人が塾を替えたいと言ってくれば問題ないのですが、成績は振るわないけれど親しい友達もいるので替えたくないと言い張るケースも多いのです。
転塾は何度もするべきではなく、しても一度だけと考えたほうがよいでしょう。塾ごとに授業進度が違うので、手のついていない分野も生じてきます。適切な時期は、5年生の学年末、6年生の1学期末、6年生の夏休み末のいずれか。学習単元の切れ目の時期がよいでしょう。
中学受験からの撤退期限は、6年生の夏休み
中学受験からの途中撤退も、親がしなくてはいけない大切な決断の一つです。
成績の不振だけでなく、心身に過度のストレスが加わり、人格形成にまで悪影響が至らんとするときは、親が撤退の決断をするべきです。
有名中高一貫校に合格することが目的ではありません。本来の目的を思い出してください。医学部に合格するという最終目的のための手段として親が中学受験を選択しただけなのです。
しかし、子どもにもプライドがあるし、受験をあきらめる不安もあります。親子で本来の目的を確認して、次なる高校受験に向けての作戦会議を開き、代替案や他にもたくさん道があることを提案してあげましょう。撤退は6年生の夏休み前がラストチャンスです。それを過ぎると、子どもも親も引っ込みがつかなくなります。
※今回は具体性を持たせるために、かなり独断的な意見になりました。もちろん実績No.1塾でなくても、超難関校に合格している生徒はいます。確率の問題ということでお許しください。
さて「塾選び」が済んだところで、次回は「学校選び」についてお話ししましょう。
【参考】
早稲田アカデミー「早稲田アカデミーの特徴」
http://www.papamama.chugakujuken.net/juku-metropolitan01.html
ReseMom「【中学受験の塾選び】希学園、特長・スケジュールと費用…4年生」
https://resemom.jp/article/2012/05/12/7674.html
四谷大塚ドットコム「四谷大塚の教材」
http://www.yotsuyaotsuka.com/kyozai/
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- 藤崎 達宏(ふじさき・たつひろ)
- NPO法人 横浜子育て勉強会 理事長。
1962年横浜生まれ。外資系金融機関に20年間の勤務を経て独立。4人の子育て経験とモンテッソーリ教育を融合した個別相談会「お父さんもいっしょに幼稚園選び」のほか、全国の企業や団体などで子育てセミナーを行う。最近では各医師会や医師協同組合での講演を多数実施。取得資格は、日本モンテッソーリ教育綜合研究所認定教師(0~3歳)/国際モンテッソーリ協会認定教師(3~6歳)。最新著書に『モンテッソーリ教育で子どもの本当の力を引き出す!』(10/23発売)。
- 『モンテッソーリ教育で子どもの本当の力を引き出す!』
- 著者:藤崎達宏
発行所:三笠書房
発行日:2017年10月23日 初版第1刷
内容:
「子どもってすごい!」
子どもの潜在能力は無限。
突然の大泣き、イヤイヤ期、なぜなぜ質問期……
子どもには子どもなりの理由があるのです。
大事なのは、子どもがいつどのような力をつけていくかという「成長サイクル」を親があらかじめ「予習」しておくことです!
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