弁護士が教える医師のためのトラブル回避術

第7回 医師とうつ病 ~ その傾向と対策

プロフェッショナルである医師にも「うつ病」になる方がいます。
日本医師会でも医師向けにうつ病にならないためのアナウンスがなされるなど医師にとってもうつ病は他人事ではありません。
日本医師会が実施した勤務医向けのアンケートへの回答では、最近1ヵ月間休日なし5.8%、半年以内に不当なクレームを経験35.6%、自殺や死を毎週・毎日具体的に考える3.6%など勤務医の方の厳しい状況が浮かび上がる結果となっています(平成28年6月「日本医師会勤務医の健康支援に関する検討委員会」より、「勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査報告書」)。

今回は医師の「うつ病」に関して、医師特有の問題と、もしも「うつ病」になってしまった場合の対処法について考えてみたいと思います。

参考
勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査報告書
医師が元気に働くための7カ条

医師の業務に伴う大きな責任とストレス

 医師は高度専門職であり人命を預かる重大な職責担っています。業務による心理的負荷は他の職業と比較して相当大きいといえるでしょう。
 また、夜間休日に対応が必要なこともあり長時間労働が常態化してしまう傾向もあり、肉体的な負担も大きいかと思います。

 さらに、いわゆるモンスターペイシェントなどといわれる患者からのクレーム、上司や部下スタッフとの人間関係など様々なストレス原因が考えられます。

 

働きすぎが一番危険

 勤務医、特に研修医や大学院生などは、養成の視点も必要であることから純粋な労務の提供なのか、研修研究の一環なのか線引きが曖昧なところがあり長時間労働が放置されることもあります。
 しかし、病院の指揮命令下で診療行為などを行っていれば、医師であっても労働者に該当しますので一般企業の会社員等と変わるところはありません。労働時間に関しては法律上の規制があります。体を壊してまで働くことはなく、休むべきときに休む権利は当然に保障されています
 そこで、最近元気がでない、やる気が起きないという状況になる前に、まず一般社会の法的規制等について認識していただき、仕事の状態が過度な水準に達していないか否かを確認していただくことも必要かと思います。
以下、労働時間、休日、労働環境について法律上保障されている権利について説明しましょう。

 

労働者に保障される「休む権利」

①労働時間について

 1日8時間として、ひと月に約170時間強を基本の労働時間(所定労働時間)とする企業が一般的です。
 この基本の170時間に加えて、残業時間がありますが、月45時間以上の残業が継続した場合には、過労死との関連性が強まると厚生労働省から発表されています。したがいまして、「うつ」との関係でいえばそれよりも短い時間であっても関連性があるとみるべきです。
 なお、呼び出されればいつでも対応する必要のある当直の仕事は待機時間であっても、病院の指揮監督下に置かれているといえる場合には労働時間に該当します。また、「オンコール」は自宅待機であり場所的な拘束がないことから、居住場所が病院に近接した場所であるなど極めて限定的に制限されており呼び出し頻度が非常に高いなどの特殊な事情がない限りは、原則として残業代は発生しないと考えられます。

 最近休んだ記憶がない、月に45時間を超える残業が常態化しているという事情があればそれは一般的には異常な事態であり、現在は問題がなくとも将来的には心身に変調を来す原因となる可能性がありますので注意が必要です。

②休日日数について

 労働時間にも関係する部分ですが、休日日数についても労働基準法で規制があります。
 使用者は少なくとも週に1日、または、4週間を通じて4日の休日を与えなければならないとしています。労働時間とあわせて十分な休日が取れているか日数の確認もしてみてください。

③労働環境について

 セクハラ・パワハラ、過剰な業務量など、職場環境からくるストレスも健康を害する大きな要因となります。そこで、労働契約法第5条や雇用契約に付随する義務として、使用者に対して、労働者が安全安心な環境で仕事ができるように調整する義務が課せられています。
 セクハラ・パワハラなどの問題が起きた場合には上司に相談したり、最近では専門の窓口を設けている医療機関もありますので第三者に相談することも解決方法の一つです。病院内部への相談がためらわれる場合には医師会などの外部機関に相談する方法もあります。
 医療事故や患者及びその家族からのクレーム等についても、法的には担当医師のみの責任ではありません。手に負えない場合には上司や病院と相談しながらチームで対応をとってもらうべきです。
ただ、医師偏在による医師不足や急な人員不足で病院が対応できないこともあります。

 改善を拒否された場合や相談すべき方がパワハラやセクハラを行っており、改善が見込めない場合もあります。
 そのような場合には転職の検討も選択肢の一つです。過労や精神的な負担によってパフォーマンスが低下することは働く医師も病院にとっても好ましい状況とはいえません。

 

もしも「うつ病」になってしまった場合の対処法

 うつ病になってしまった場合、専門の医師による治療が最も重要であることは当然として、勤務環境や勤務条件を整えてゆくことも重要です。無理をして勤務することで病状が悪化したり、ミスをしたりすることも考えられます。
 不十分なパフォーマンスで勤務を継続すれば、普通の会社員であっても、解雇されたり、不利益な処分を受けたりする可能性もあります。特に医師の方の場合、医療過誤という最悪の結果を招来するおそれもあります。
 そこで、無理にこれまで通りの勤務を継続するのではなく、できる範囲で働いてゆけるように調整を行うということが非常に重要になります。 法的に取りうる方法をご案内します。

①「休職」と傷病手当について

 病院と合意ができれば思い切って休みをとることも方法の一つです。
 一般には「休職」と呼ばれる状態です。法律上の明確な定義があるわけではありませんが、使用者が従業員に対し労働契約を維持させながら労務提供を免除することを言います。
 しかしながら、勤務中の事故など明確なものとは異なり、「うつ病」で休職した場合、一般的には休職期間中賃金支払われません
もっとも、健康保険から傷病手当を受給することが可能です。支給される金額は給与の約3分の2(標準報酬月額÷30×3分の2)で給付を受けられる期間は最長で1年6か月間です。

②「労災認定」について

 業務で怪我をしてしたり、病気になったりした場合には労働災害として保険給付を受けることが可能です。精神疾患に関しても、労災認定は可能であり、当該精神疾患が業務との関連で発病する可能性のある精神疾患であり、発病前のおおむね6カ月間に業務による強い心理的負荷が認められ、業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したとは認められないことが要件とされています。業務が原因で「うつ病」になった場合でも労災認定を受けることは可能です。
 労災認定後に受給できる保険給付の内容としては、休業補償給付として療養のための休業の4日目から1日につき平均賃金相当額の100分の60が支給されます。また、社会復帰促進等事業として1日につき平均賃金相当額の100分の20の休業特別支給金が支給されます。そして、診察費用や入院費用は療養補償給付として、障害が残った場合には障害補償給付が支給されます。
 なお、非常勤やアルバイトの場合はどうでしょうか? 実は「非常勤」や「アルバイト」などの概念は法律で明確に定義されているわけではありません。したがいまして、どのような呼び名であっても雇用契約書等の使用者と締結した契約書の社会保険加入の有無を確認し、加入があれば労災認定を受けることは可能です。使用者が条件の有無を明らかにしない場合には労働条件の明示義務に違反します。

③その他の補償について

 公的補償とは別に民間が運営する所得補償保険に加入することも一つの方法です。精神疾患が理由でも保険金を受け取ることができる商品も存在します。

  医師の方にも「うつ病」は身近な存在になっています。未然に防止するためには現状を認識し、心身ともに健康な生活をおくることが一番です。現状に問題がある場合、改善させるためには法的知識が役に立ちます。周囲の方にもそれを認識してもらえれば労働環境全体を改善することも可能です。
 「うつ」になった場合、社会保障が準備されていますし、任意保険に加入しておくことで収入面の不安を軽減させることも可能です。
 是非一度ご自身の労働環境を今一度見直していただいてはいかがでしょうか。

 

 

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松本紘明(まつもと・ひろあき)

弁護士 / 弁護士法人戸田総合法律事務所、第二東京弁護士会所属。
事務所は数十社のクライアントと顧問契約を締結し、医療関係も含む。注力分野はインターネット法務、労務、離婚や男女トラブルなど。

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