勤務医が知っておきたい医学論文作成のイロハ

【第3回】原著論文の書き方① -「Introduction」の執筆ポイント

康永 秀生 氏(東京大学大学院医学系研究科 教授)

臨床研究の実績として、医師のキャリアに大きく関係する医学論文。本シリーズは症例報告・原著論文を中心に、執筆から投稿までのコツを連載形式でご紹介します。解説いただくのは、東京大学大学院で臨床疫学と医療経済学の教授として若手研究員を指導、「Journal of Epidemiology」の編集委員も務める康永秀生氏です。臨床で忙しい勤務医でも書き上げられる「論文作成の方法」をレクチャーいただきます。

第3回からは複数回にわたって「原著論文の執筆手順」についてお伝えしていきます。まずは「Introduction」の書き方から、解説していただきます。

 

1.「原著論文」とは

原著論文(Original article)は、次のような特徴のある論文です。学会抄録、文献レビュー、評論などは原著論文に含まれません。

[原著論文の特徴]
・独創的な研究結果の最初の発表の場となる
・実験や分析の方法に再現性がある
・査読を経てジャーナルに掲載される
※症例報告論文との違いについては第2回記事を参照ください。

論文はTitleとIMRAD(イムラッド:Abstract[抄録]、Introduction[緒言]、Methods[方法]、Results[結果]、Discussion[考察])と呼ばれる節(Section)で構成する本文から成り立ちます。各節は相互に関連し合うため、論理立てて作成しなくてはなりません。

 

2.いつ論文を書き始めるか?~効率的な執筆手順とは

先行研究レビューも不十分なまま、研究仮説や研究デザイン、統計解析の方法を事前に固めておくことなしに、取れるデータを何となく取りにかかる。適当に集めたデータを無目的に統計ソフトにぶち込んで、「何か面白いことないかなあ」とあてどもない統計検定の迷路をさまよう。――やりがちですが、やってはならないことです。

はっきり言いましょう。そのようなことを繰り返していては、10年経っても論文は書けません。論文を書く筆が進まない理由は、研究計画が事前に十分に固められていなかったことに尽きるでしょう。

研究計画を練り上げ、十分に吟味を重ねた上で、研究計画書にまとめる。この段階を経たらすぐに、論文を書き始めるべきです。Introductionは、データ収集を始める前に書き終えられるはずです。Introductionを書く前にデータ収集を始めるべきではありません。

原著論文の本文各節の執筆順は、Introduction→Methods→Results→Discussionとすべきです。本文の完成後にAbstractを執筆し、最後にタイトルをつけるのが正しい手順となります。

■原著論文の執筆手順

 

今回は、原著論文で初めに執筆すべきIntroductionの書き方について解説しましょう。

 

3.rejectされるIntroduction

筆者は、臨床疫学の専門誌である「Annals of Clinical Epidemiology」の編集長、疫学の専門誌である「Journal of Epidemiology」の編集委員を務めています。編集者としてつくづく感じることですが、投稿された論文の善し悪しはIntroductionを読むだけで分かります。研究計画を固めずに何となく取れたデータを何となくまとめて投稿したことは、Introductionを読むだけで看破できてしまうのです。そのような論文に対しては、Introductionを読んでいる途中で、外部査読者に回すことなくrejectすることを決めてしまいます。

以下に、ダメなIntroductionの典型的なパターンを紹介しましょう。
(1)教科書的記述の羅列
Introductionの冒頭に、研究の対象となっている疾患についての教科書的記述が延々と書き並べられている。
(2)先行文献の総説的記述
リサーチ・クエスチョンと直接的な関連が不明な先行文献の解説が、だらだら書かれてある。
(3)研究目的が不明
研究の仮説が何であるのか、この研究で何を明らかにしたいのか、判然としない。

上記のような悪しきIntroductionは改めるべきです。では、どのような構成をしているものが「良いIntroduction」なのでしょうか。

 

4.良いIntroduction

原著論文におけるIntroductionの役割は、その研究を行うべき論理的根拠を示すことです。解決すべき臨床的課題、以降に展開される論旨の方向性、研究の目的を明示します。

良しとされるIntroductionは、以下のような4パラグラフ(段落)で構成されます。

  • ・第1パラグラフ:背景(Background)
  • ・第2パラグラフ:すでに分かっていることは何か?(What is already known?)
  • ・第3パラグラフ:まだ分かっていないことは何か?(What remains unknown?)
  • ・第4パラグラフ:この研究の目的は何か?(What were the aims of the present study?)

各パラグラフで記載すべき内容を解説しましょう。

第1パラグラフ(背景)
解明すべき臨床的な課題とその性質・範囲を簡潔に示します。なぜそれを解明する必要があるのか、つまり論拠(rationale)を明示します。

第2パラグラフ(すでに分かっていることは何か?)
提示された臨床的課題について、先行研究で何がどこまで明らかになっているかを示します。その後に引き続く「まだ分かっていないことは何か?」「この研究の目的は何か?」に関する第3パラグラフの伏線となるため、簡潔な文献引用を旨としなければなりません。研究目的とは直接関係しない文献引用は一切無用です。

【 Discussionにおける文献引用との違い】
Introductionにおける文献引用は、Discussionにおける文献引用とは役割が異なります。Introductionにおける引用は、焦点を当てている研究テーマに関する最新医学の現状を明らかにするという役割。Discussionにおける引用文献は、研究結果に対する補足説明や、結果に基づく考察に裏付けを与えるという役割です。IntroductionとDiscussionに同じ文献を引用し、似たような解説を2度繰り返している投稿論文が見受けられますが、重複記載は紙幅の無駄です。

第3パラグラフ(まだ分かっていないことは何か?)
まだ分かっていないことは何か、を簡潔に記すことにより、論文全体の方向性を明示します。

第4パラグラフ(この研究の目的は何か?)
証明すべき仮説を提示し、研究の目的を明示します。これはDiscussionで論ずべき内容の伏線になります。Discussionでは、本研究のどこに新規性があるか、本研究が既存の知見に何を追加できるかについて論じることになります。その最終的な出口につながる入口に読者を導いていくのです。

 

5. 各パラグラフの構造は「キー・センテンス+補足説明」

パラグラフは1つの話題(Topic)を説明するために構成された文章のまとまりです。1パラグラフ・1トピック(One paragraph, one topic)が原則です。
各パラグラフに1文のキー・センテンス(key sentence)を意識的に挿入するように心掛けましょう。キー・センテンス以外の文章は、キー・センテンスの補足説明という位置づけになります。キー・センテンスはパラグラフの冒頭に置かれることが多いものの、パラグラフの末尾や中間に置いてもかまいません。これらの要素を入れ、Introduction全体で500文字以内を目安に、作成していきましょう。
Introductionを4パラグラフ構成とした場合、必然的に、キー・センテンスは4つ存在します。キー・センテンスを繋ぎ合わせると、Introductionの全体像を把握できるように書くことが重要です。

「分かっていること」と「分かっていないこと」を「分ける」ことが、科学研究の出発点と言えるでしょう。Introductionはまさに、既知と未知の線引きを行い、本研究がもたらす科学の進歩が何たるかを読者に解くための導入部分と言えます。

次回は「原著論文のMethodsの書き方」について解説します。

 

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康永 秀生(やすなが・ひでお)
東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授。
1994年、東京大学医学部を卒業後、6年間臨床医として病院勤務。東京大学助教・特任准教授、ハーバード大学客員研究員などを経て、2013年より現職。専門は臨床疫学、医療経済学。2019年1月現在、英文原著論文の出版数は約400編。日本臨床疫学会理事。Journal of Epidemiology編集委員。Annals of Clinical Epidemiology編集長。近著に、『必ずアクセプトされる医学英語論文 完全攻略50の鉄則』(金原出版)、『できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則』(金原出版)、『健康の経済学』(中央経済社)、『すべての医療は「不確実」である」(NHK出版)など。
『できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則』
著者:康永秀生
発行所:金原出版
発行日:2017/9/28
内容:
臨床研究の知識や技術は、医学部の6年間では十分に教育されません。医師になった後に自学自習で身に着けるにも限界があります。
本書は、筆者が教鞭を執る東京大学大学院での講義内容を一冊にまとめたものです。
クリニカル・クエスチョンを臨床研究につなげる研究デザインの知識。
臨床研究に必要となる疫学・統計学の基礎知識。
臨床研究を実践するための知識・技術がこの一冊に凝縮されています。
この一冊があれば、今日から臨床研究を始められます。
Annals of Clinical Epidemiology(ACE)
発行:日本臨床疫学会
創刊:2019年4月1日
内容:
「クリニカル・マインドとリサーチ・マインドを持つ医療者による質の高い研究を、ビッグデータを活用した研究などの振興と研究人材育成を通じて推進し、現在の医療が直面する諸課題の解決に貢献する」という日本臨床疫学会のミッションに沿う論文を掲載します。掲載論文は、同会ホームページの会員専用ページから閲覧可能です。
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