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第4回 コカの葉と青銅製ナイフで頭部穿孔術をする医師募集(インカ・15世紀)

募集要項
・勤務時代:15世紀頃
・勤務地域:インカ帝国
・勤務内容:頭を負傷した患者への頭部穿孔術

仕事内容詳細
主に戦争で頭部を負傷した患者の手術を行う。麻酔はコカの葉を用いること。

戦時の負傷者を救った頭部穿孔術

頭部への脳神経外科的な処置は、古くは紀元前のエジプトや紀元前後のインド、中国などで行われていたといわれています。ヨーロッパでは古代ギリシアの時代から頭部穿孔術の記述があり、中世から近代にかけて広く行われてきましたが、これは「頭骨内にある霊的に悪いものを外に出す」という神秘主義的な意味合いの強いものでした。

実際に医学的な成果を挙げていた例として有名なのが、15世紀頃に南米アンデス山脈で栄えた、インカ帝国における脳外科手術です。アメリカ合衆国で現代的な脳外科手術の基礎ができたのは19世紀の末頃であり、これよりもおよそ400年ほど早いことになります。

インカ帝国の脳外科手術は、部族間の戦争などで頭部を負傷した患者に対して、急性硬膜下血腫の治療をするために行われていたと考えられています。
処置の方法は、現地で広く栽培されていたコカの葉で麻酔をかけ、トゥミと呼ばれる青銅製のナイフを用いて頭蓋骨の一部を切削することで、脳の腫大による圧迫を防ぐというものでした。

アンデス山脈の高地では、このような治療の跡が残る頭蓋骨がいくつも発見されており、頭部穿孔術が広く行われていたことが分かります。頭蓋骨の分析から、術後は平均で数年~十数年程度は生存していたとする説もあり、手術が一定の成果を挙げていたことが伺えます。麻酔となるコカの葉の存在に加え、インカの都市部が高山地帯の寒冷地に集中していて雑菌が比較的少なく、感染症を起こす率が低かったことも、このような手術法が発達した一因だと考えられます。

 

ヨーロッパ人にも重宝されたインカの薬草学

インカ帝国では、高山帯から低地までさまざまな生態環境に生える薬草を治療に用いていました。

特に重要視されていたのが麻酔にも使われたコカの葉です。インカ人は大切に栽培して刈り入れたコカの葉を天日に干して、滋養強壮薬として用いたり、粉にしたものを傷薬や鎮痛剤、骨折した骨を固める薬として使用したりしていました。

コカ以外にもいろいろな薬草が用いられました。例えば「ムイ」と呼ばれるウルシ科の小高木は、ゴム質の部分に薬効があることが知られており、傷の治療に用いられました。「チルカ」の葉を素焼きの鍋で温めたものは、関節の痛みを取り除くのによいとされ、足を脱臼した馬の治療にも使用されました。このほか、「歯を強くし、歯茎を引き締める根っこ」などもあったそうです。

こうした多種多用な薬草は、後にインカを侵略したヨーロッパの人々にも重宝され、盛んに用いられました。

 

生贄にも使われた医術

このように、インカ帝国には人命を救い、生活の質を向上させるための優れた医術がありました。ただ、これは必ずしも人を救うためだけに使われたわけではありませんでした。

1999年に、アルゼンチンでインカ帝国時代のものと思われる子どものミイラ3体が発見されました。彼らはインカの儀式カパコチャで生贄として生き埋めにされたものと考えられています。

その後の研究で、3人の子どもは生贄にされる1年前ほどから、トウモロコシやリャマの肉といった栄養価の高い食事に加えて、大量のコカの葉や、コカから作られたチチャ(ビールのようなもの)を与えられていたことが分かりました。生贄の準備として、時間をかけて薬漬けにされていたということです。儀式が近づくにつれ、コカやチチャの量は意図的に増やされたと考えられています。

研究者によれば、3体のミイラはいずれも安らかな表情をしており、コカやアルコールの鎮静作用により眠るように冥界へ旅立ったとされています。
生贄にされたことが子どもたちにとって幸福だったのか不幸だったのかは分かりませんが、高度な医術もその用いられ方は時代や社会の要請によるのだと感じさせられます。

(文・エピロギ編集部)

 

<参考>

ベルナン、カルメン『インカ帝国 太陽と黄金の民族』(創元社、2012)

IRORIO「【インカ帝国】太陽神へと捧げられた生贄の子供たちは儀式の前に薬物とアルコールを与えられていた 」(閲覧日:2015年7月15日)
http://irorio.jp/sakiyama/20130731/71086/
IRORIO「【古代文明の脳外科手術】1000年以上も昔の埋葬場所から手術の穿孔練習と思われる頭蓋骨が発掘される」(閲覧日:2015年7月15日)
http://irorio.jp/sakiyama/20131221/97238/
精密工学会誌Vol.74「技能を守れ! 町工場の底力 ~脳外科手術機器 編~(前編)」(閲覧日:2015年7月15日)
http://henshu-wg0.jspe.or.jp/2008_01_report.pdf

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