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第6回 インド伝統医学のアーユルヴェーダ医師募集(インド・10世紀頃)

募集要項
・勤務時代:10世紀
・勤務地域:インド
・勤務内容:三診による診察、食事を中心とした生活指導、パンチャカルマの実践、薬剤の処方

仕事内容詳細
触診(特に脈診)、視診、問診による診察、身体のバランスを取り戻すための食事療法の指導、下剤療法や瀉血療法による体液調整(パンチャカルマ)、薬草(ハーブ)の処方

現代まで生き続けるアーユルヴェーダ

インドの伝統医学であるアーユルヴェーダは、紀元前の古くに始まり、歴史の中でさまざまな変化を遂げながら今日まで実践されてきました。発祥の時期については不明な点が多いのですが、紀元前8世紀から起源10世紀頃が最盛期といわれています。紀元前8世紀頃にははや伝統医学(アーユルヴェーダ)の教育制度が整えられ、専門の医師の養成が行われていたそうです。かのブッダもアーユルヴェーダに精通し、病人の治療をしたり、悟りを開くための養生法を説いたりしていたと伝えられています。

アーユルヴェーダの知識や概念、手法については、紀元前5世紀(ヒポクラテス)以降に成立していった西洋医学や、中国の伝統医学にも影響を与えた、または相互に影響があったとする説があります。

中世から近世まで、インドはイスラム系王朝による支配や大英帝国による植民地化を受け、イスラム系のユナニ医学や西洋医学が流入しましたが、アーユルヴェーダは民衆のための医学、あるいは民間の医療知識として残り続けました。
その後、19世紀に起こった伝統医学の復興運動は、20世紀前半のインド独立運動時にピークを迎えました。この時期に、伝統医学の体系化が進められるとともに、大学で伝統医学教育が行われるようになったのです。

現在のインドでは、現代医学(西洋医学)を行う医師のほかに、アーユルヴェーダ医師の国家資格B.A.M.S.(Bachelor of Ayurveda, Medicine and Surgery)があります。B.A.M.S.の医師は現代医学とアーユルヴェーダ医学の両方を学び、この教育を行う大学は100以上にものぼります。

 

世界最古の形成外科手術

紀元前200年から紀元600年の間に、『スシュルタ・サンヒター』『チャラカ・サンヒター』『アシュターンガフリダヤ・サンヒター』という3つの書物が成立しました。これらはアーユルヴェーダの知識が集成されたもので、現代でもアーユルヴェーダを学ぶ際の基礎として用いられています。

このうち『スシュルタ・サンヒター』には、「世界最古の形成外科手術」として知られる手術法が登場しています。
古い時代のインドには、犯罪者への刑罰として「鼻そぎ」が行われていました。最古の形成外科手術とは、つまりこの受刑者に対して行われていた「造鼻術」でした。その手法は遠方まで伝わり、中世のヨーロッパでも同種の手術が行われていたといいます。
このほか、アーユルヴェーダの盛期には耳の形成術や白内障の手術、開腹術や開頭術も行われていたようです。ただ、こうした外科手術は、インドではあまり受け継がれることなく、早々に行われなくなってしまいました。

 

あらゆる病気は「VPKバランスの乱れ」

アーユルヴェーダの根幹を成しているのが、「トリ・ドーシャ」という概念です。
トリ・ドーシャは三体液または三病素と訳され、「ヴァータ」「ピッタ」「カパ」(略してVPK)と呼ばれる三つの要素(3つのドーシャ)で成り立っています。アーユルヴェーダでは、生命を持つものはすべてこの三要素を持つとされています。日本語でヴァータ、ピッタ、カパに相当する言葉はないのですが、それぞれ下記のような性質を持つものとされています。

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身体や精神のVPKバランスが崩れることで健康が損なわれるというのが、アーユルヴェーダの基本的な考え方です。「ヴァータが増えすぎたことで腰痛になっている」というように、あらゆる病気や症状がVPKのバランスで説明されてきました。
アーユルヴェーダは、VPKバランスを整えることで健康な状態を保つことを目的としており、現在でいう「予防医学」の面が強い医学体系だといえます。

 

治療のポイントは食事、薬草と"体内の浄化"

それでは、体内のVPKバランスが崩れた"患者"が現れた場合、アーユルヴェーダの医師はどのように対処してきたのでしょうか。

古典の医学書『アシュターンガフリダヤ・サンヒター』によれば、医師が患者を診察する際は、視診(ダルシャナ)、触診(スパルシャナ)、問診(プラシュナ)の三診を行うこととされています。これにより、VPKバランスの乱れ具合を調べていたようです。体内の状態を重視する考え方から、糞便検査も積極的に行われていたといわれています。触診で重視されるのは手で脈をとる脈診で、熟達した医師は脈からVPKバランスを読み取ることで、過去の病歴まで当ててみせるそうです(※)。

※ 幡井勉「新版 アーユルヴェーダの世界 統合医療へ向けて」(出帆新社、2003)

アーユルヴェーダにおいて、治療とはすなわち体内のバランスを回復させること。そのための手段として、食事療法が重視されていました。
「甘味はヴァータとピッタを減らしてカパを増やす」「酸味はヴァータを減らしてピッタとカパを増やす」というように、食べ物の味や種類はドーシャに影響を与えると考えられてきました。また、量や取り合わせ、食べ方などもドーシャに影響するとされました。
食事のほか、瞑想、睡眠、仕事、休暇、運動、性交などもドーシャに関わるとされていたため、食事以外にもさまざまな面で生活指導が行われてきたようです。

患者がVPKバランスを大きく崩しているような場合には、「パンチャカルマ」という、体内を浄化する治療法がとられました。
パンチャカルマは「5つの治療法」という意味で、催吐法、瀉下法、浣腸法、経鼻法、瀉血法の5つを指します。それぞれ、催吐法であれば催吐剤、瀉下法であれば下剤というように、薬物等を用いて体内の不要な老廃物を排泄させ、VPKバランスを調整(回復)することを目的としました。冒頭のイラストは、鼻からハーブオイルを入れて老廃物を出させる経鼻法(ナスヤ)のイメージです。

このほか、インドでは古くから多種多様な薬草(ハーブ)が治療に用いられてきました。紀元前のアーユルヴェーダの古典には500~700種類の薬草が記載されており、実際に使用する際は数種類から数十種類の薬草および鉱物類を混合して使用していたといわれています。

最近では、欧米を中心にアーユルヴェーダ(特にパンチャカルマ)が注目を集めており、ヨーロッパからインドへの医療ツーリズムが盛んになっています。ただ一方で、医療ではなく美容目的のものと認識されてしまったり、インドの伝統的な薬草の特許を欧米の製薬会社に取得されてしまったりと、いろいろ悩ましい点もあるようです。

(文・エピロギ編集部)

 

<参考>

高橋和巳「アーユルヴェーダの知恵 蘇るインド伝承医学」(講談社現代新書、1995)
バイナム、ウィリアム&ヘレン「Medicine ――医学を変えた70の発見」(医学書院、2012)
幡井勉「新版 アーユルヴェーダの世界 統合医療へ向けて」(出帆新社、2003)
モリスン、ジュディス・H「本当の自分を取りもどすアーユルヴェーダ」(産調出版、1997)

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